櫻桃庵はわが弊屋のことです。小さな庭に植えた苗木がいつの間にか大きくなりました。俳句や本や映画や友達のことなんかをぽつぽつ書く日記です。 2007年から2010年までmixiに引っ越していたため更新できておりませんでしたが、此方も少しずつ書いていきます。

2010年4月8日木曜日

映画 「息もできない」

緊密な映画だ。
暴力をこれでもかというくらい使い倒しているところは北野武系ともいえるが、ストーリーのまわしのイレコ構造が重層的でなんかシェークスピアみたいな感じもうける。

ヤン・イクチュン 製作・監督・脚本・編集・主演ということだが、どれも巧いなあ。主演はどう見ても主人公のキャラにぴったりで安っぽいチンピラの演技に凄みがある。最初に役者としての自分ありきで、製作企画したり脚本書いたのではないか。違う役柄が想像できないのも北野的か・・
家庭内暴力の連鎖というと平板だが、大きなテーマはそのあたりなのだろう。
しかしそんな厄介なテーマをこってり描いてあるがそれがあまり押し付けがましくなく、むしろそのときだけ描写がやさしいタッチになるところは好感。
その点は、一貫して暴力だけで、性描写が一切出てこないところも特筆すべきところ。物語のリアリティを欠く要素にもなっているが、物語そのものを成立させている危うい条件ともいえる。
気になったのは物語後半のまとめ方。ああこんなことなんだろうなあと思ったとおりの「よくある」終わり方になってしまったのがつらい。伏線の置き方が類型的なのだ。

女子高校生役のキム・コッピは日本にはいないタイプの女優と思う。目力があるのに、直線的なラインが少なく、やさしさというか母性のようなものも役柄としてコントロールされている。こんなに早く上手くなってしまうとあとが心配だなあ。

カメラも素敵だ。男にぶん殴られた女の子が、失神から覚めて最初に目に入るのが殴った男で・・・・というのが女の子の視線になっている。
またこんなに暴力的で、町も家も汚い場所ばかり写しているのに画面自体は貧乏くさくない。

ちょっとした手違いでシニア料金で入場できてしまったことはかなりショックだったが、正規料金払ってちっとも惜しくない映画だった。今のところ今年ベストと思った。

★★★★★
<受賞歴>は以下

●ロッテルダム国際映画祭 タイガー・アワード(グランプリ)
●ラス・パルマス国際映画祭 主演男優賞、主演女優賞
●ドーヴィル・アジア映画祭 ゴールデン・ロータス賞(グランプリ)、国際批評家賞
●フリブール国際映画祭 エクスチェンジ賞
●ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭 カトリック映画賞、観客賞
●シンガポール国際映画祭 最優秀演技賞(男優賞)
●バルセロナ・アジア映画祭 ゴールデン・ドリアン賞(グランプリ)
●ニューヨーク・アジア映画祭 新人監督賞
●台北映画祭 スペシャル・メンション賞
●カルロヴィヴァリ国際映画祭 NETPAC賞(アジア映画賞)
●ファンタジア国際映画祭 最優秀映画賞、最優秀男優賞
●テキサス=オースティン・ファンタスティック映画祭 観客特別賞、
 ニュー・ウェイヴ部門最優秀監督賞
●ウラジオストク国際映画祭 グランプリ、最優秀女優賞
●アジア太平洋映画賞 男優特別賞
●韓国映画評論家協会 国際批評家連盟韓国本部賞
●韓国・大鐘賞 新人女優賞
●韓国・青龍映画賞 新人男優賞、新人女優賞
●東京フィルメックス 最優秀作品賞(グランプリ)、観客賞
(2009.12.10現在)

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